プログラムの中には固定的に他のプログラムへのパスを保持しているものがあります。 そのパスは今の時点ではまだ存在していません。 このようなプログラムを正しく動作させるため、シンボリックリンクをいくつか作成します。 このリンクは本章の作業を通じて各種ソフトウェアをインストールしていくことで、 その実体であるファイルに置き換えられていきます。
ln -sv /tools/bin/{bash,cat,chmod,dd,echo,ln,mkdir,pwd,rm,stty,touch} /bin ln -sv /tools/bin/{env,install,perl,printf} /usr/bin ln -sv /tools/lib/libgcc_s.so{,.1} /usr/lib ln -sv /tools/lib/libstdc++.{a,so{,.6}} /usr/lib ln -sv bash /bin/sh
各リンクの目的
/bin/bash
bash スクリプトはたいてい
/bin/bash
として記述されます。
/bin/cat
このパス名は Glibc の configure スクリプトにてハードコーディングされています。
/bin/dd
dd
へのパスが /usr/bin/libtool
ユーティリティーにハードコーディングされます。
/bin/echo
Glibc のテストスイートの中に /bin/echo
を用いているものがあり、これを成功させるためです。
/usr/bin/env
このパスは、パッケージのビルドを通じてハードコーディングされることがあります。
/usr/bin/install
install
へのパスが /usr/lib/bash/Makefile.inc
ファイル内にてハードコーディングされます。
/bin/ln
ln
へのパスが /usr/lib/perl5/5.30.1/<target-triplet>/Config_heavy.pl
ファイル内にてハードコーディングされます。
/bin/pwd
特に Glibc などの configure スクリプトにて、このパス名がハードコーディングされています。
/bin/rm
rm
へのパスが /usr/lib/perl5/5.30.1/<target-triplet>/Config_heavy.pl
ファイル内にてハードコーディングされます。
/bin/stty
このパス名は Expect にてハードコーディングされています。 したがって Binutils と GCC のテストスイートを成功させるために必要となります。
/usr/bin/perl
perl コマンドに対して Perl スクリプトはたいていこのパス名を用いています。
/usr/lib/libgcc_s.so{,.1}
pthreads ライブラリが正常動作するように Glibc にとって必要となります。
/usr/lib/libstdc++{,.6}
Glibc のテストスイート、例えば GMP における C++ サポートなどにおいて、これを必要とするものがあります。
/bin/sh
シェルスクリプトはたいてい /bin/sh
がハードコーディングされています。
Linux のこれまでの経緯として、マウントされているファイルシステムの情報は /etc/mtab
ファイルに保持されています。 最新の Linux
であれば、内部的にこのファイルを管理し、ユーザーに対しては /proc
ファイルシステムを通じて情報提示しています。 /etc/mtab
ファイルの存在を前提としているプログラムが正常動作するように、以下のシンボリックリンクを作成します。
ln -sv /proc/self/mounts /etc/mtab
root
ユーザーがログインできるように、またその「root」という名称を認識できるように
/etc/passwd
ファイルと /etc/group
ファイルには該当する情報が登録されている必要があります。
以下のコマンドを実行して /etc/passwd
ファイルを生成します。
cat > /etc/passwd << "EOF"
root:x:0:0:root:/root:/bin/bash
bin:x:1:1:bin:/dev/null:/bin/false
daemon:x:6:6:Daemon User:/dev/null:/bin/false
messagebus:x:18:18:D-Bus Message Daemon User:/var/run/dbus:/bin/false
nobody:x:99:99:Unprivileged User:/dev/null:/bin/false
EOF
root
ユーザーに対する本当のパスワードは後に定めます。(「x」は単に場所を設けるために設定しているものです。)
以下のコマンドを実行して /etc/group
ファイルを生成します。
cat > /etc/group << "EOF"
root:x:0:
bin:x:1:daemon
sys:x:2:
kmem:x:3:
tape:x:4:
tty:x:5:
daemon:x:6:
floppy:x:7:
disk:x:8:
lp:x:9:
dialout:x:10:
audio:x:11:
video:x:12:
utmp:x:13:
usb:x:14:
cdrom:x:15:
adm:x:16:
messagebus:x:18:
input:x:24:
mail:x:34:
kvm:x:61:
wheel:x:97:
nogroup:x:99:
users:x:999:
EOF
作成するグループは何かの標準に基づいたものではありません。 一部は本章の Udev の設定に必要となるものですし、一部は既存の Linux
ディストリビューションが採用している慣用的なものです。 またテストスイートにて特定のユーザーやグループを必要としているものがあります。
Linux Standard Base (http://www.linuxbase.org 参照) では
root
グループのグループID (GID) は
0、bin
グループの GID は 1 を定めているにすぎません。
他のグループとその GID はシステム管理者が自由に取り決めることができます。 というのも通常のプログラムであれば GID
の値に依存することはなく、あくまでグループ名を用いてプログラミングされているからです。
プロンプトの「I have no
name!」を取り除くために新たなシェルを起動します。 第 5 章にて完全に Glibc をインストールし /etc/passwd
ファイルと /etc/group
ファイルを作ったので、ユーザー名とグループ名の名前解決が適切に動作します。
exec /tools/bin/bash --login +h
ディレクティブ +h
について触れておきます。 これは
bash
に対して実行パスの内部ハッシュ機能を利用しないよう指示するものです。 もしこのディレクティブを指定しなかった場合 bash は一度実行したファイルのパスを記憶します。
コンパイルしてインストールした実行ファイルはすぐに利用していくために、本章の作業では +h
ディレクティブを常に使っていくことにします。
login、agetty、init といったプログラム (あるいは他のプログラム) は、システムに誰がいつログインしたかといった情報を多くのログファイルに記録します。 しかしログファイルがあらかじめ存在していない場合は、ログファイルの出力が行われません。 そこでそのようなログファイルを作成し、適切なパーミッションを与えます。
touch /var/log/{btmp,lastlog,faillog,wtmp} chgrp -v utmp /var/log/lastlog chmod -v 664 /var/log/lastlog chmod -v 600 /var/log/btmp
/var/log/wtmp
ファイルはすべてのログイン、ログアウトの情報を保持します。 /var/log/lastlog
ファイルは各ユーザーが最後にログインした情報を保持します。
/var/log/faillog
ファイルはログインに失敗した情報を保持します。 /var/log/btmp
ファイルは不正なログイン情報を保持します。
/run/utmp
ファイルは現在ログインしているユーザーの情報を保持します。 このファイルはブートスクリプトが動的に生成します。